ストレスからくる胃痛や口内炎に半夏瀉心湯(ハンゲシャシントウ)
漢方医学には、人のこころとからだを一つのものと考える「心身一如(しんしんいちにょ)」という言葉があります。
精神的な不調は、体の様々な症状としてあらわれ、またその逆もあるという考え方です。
漢方薬は複数の生薬が配合された薬剤です。その生薬の中には、様々な体の状態を整えるものだけでなく、不安感や緊張感などのメンタル面の問題を改善してくれるものも含まれています。
今回は、ストレスが胃に来るタイプの方にもよく使われる「半夏瀉心湯(ハンゲシャシントウ)」についてご紹介します。
半夏瀉心湯の効能・効果について
半夏瀉心湯は、胃腸の働きを良くして食欲不振や胃もたれ、吐き気、おなかのゴロゴロ、下痢などを治します。
また、口内炎や神経症にも適応しています。体力が中くらいで、みぞおちが張り、つかえ感のある時に使われます。
各症状への効果について詳しく見て行きましょう。
ストレス性の胃腸症状・下痢
下痢を止めるのではなく、胃腸の働きを正常に戻すことで症状を改善します。
半夏瀉心湯には、胃腸をあたためることで余分な水分を体の外に排泄したり、気の流れをよくすることでストレスを和らげることが期待できます。
口内炎
胃の不調やストレスによっておこる口内炎や口角炎の改善が期待できます。
炎症や痛みのもととなる物質の発生を抑えて、抗菌作用や粘膜を修復する作用があるためです。
ストレス
半夏瀉心湯の効果のひとつに、「神経症」があります。
神経症とは主に心理的原因によって生じる心身の機能障害のことです。
半夏瀉心湯に含まれている生薬について
口から食べ物が入っても、きちんと消化・吸収されなければ、身体をうごかす力にはなりません。
その力がなければ、今度は食べ物が消化、吸収する力も低下してしまい、悪循環に陥ってしまいます。
漢方医学では、この力を「気」と呼びます。
「気」は、強い圧力をうけるとその場で停滞しやすくなりまずが、ストレスも「気」にかかる圧力のひとつです。
半夏瀉心湯は、「気」のめぐりを整えたり、胃腸を守る生薬が組み合わされています。
半夏瀉心湯に配合されている生薬は以下の7種類です。
黄連(オウレン)
解熱作用、消炎作用、健胃作用
半夏(ハンゲ)
制吐作用、去痰作用
人参(ニンジン)
強壮作用、抗ストレス作用、賦活作用、補気作用
黄芩(オウゴン)
解熱作用、消炎作用、止血作用
生姜(ショウキョウ)
興奮作用、強壮作用、健胃作用
甘草(カンゾウ)
鎮痛作用、抗痙攣作用、鎮咳作用
大棗(タイソウ)
健胃作用、強壮作用、利尿作用、鎮静作用
実は抗がん剤の副作用で起こる口内炎にも使われている半夏瀉心湯
先ほど効能・効果でも紹介しましたが、半夏瀉心湯は口内炎にも有効です。
実は、抗がん剤の副作用でおこる口内炎の治療にも用いられているほどです。
口内炎の痛みは、感覚神経のプロスタグランジンE2という生理活性物質で誘発されると考えられています。
半夏瀉心湯は、炎症部位のプロスタグランジンE2を抑制する働きが科学的に証明されています。そのため、口内炎の痛みを抑えることができるとも言われています。
名前が似ている半夏厚朴湯(ハンゲコウボクトウ)との違いは?
半夏厚朴湯(ハンゲコウボクトウ)も、ストレスからくる諸症状の改善によく用いられる漢方薬です。
半夏瀉心湯は、胃腸症状を中心に改善するのに対し、半夏厚朴湯は「気剤」と呼ばれており、不安、イライラ、ヒステリー、喉の異物感など、精神的な問題を中心に改善します。
西洋医学的な検査を受けても異常が見つからなかった場合、半夏厚朴湯が効果を発揮する場合もあります。
緊張しながら食事をすると、空気も多く飲み込んでいてお腹が張ってしまうような人にも効果的な漢方薬です。
精神的な安定をもたらしてくれる漢方薬
半夏瀉心湯、半夏厚朴湯以外にもストレスに対して使われる漢方薬はいくつかあります。
加味逍遙散(カミショウヨウサン)
イライラ感があり、ちょっとしたことが気になって心配になる、憂うつ感があるような方におすすめされる漢方薬です。精神的な症状の他にも、のぼせ・頭痛などの不定愁訴にも適しています。
抑肝散(ヨクカンサン)
イライラしてかーっと怒りやすい時によく効きます。筋肉を緩める弛緩作用もあるため、身体とこころを穏やかに沈めてくれます。
安中散(アンチュウサン)
ストレスで胃がキリキリと痛む人、あまたはしくしくと痛む、げっぷが良く出る、胸やけなどの胃酸過多の傾向がある人に向いています。
半夏瀉心湯の飲み方
1日2~3回に分けて、食前か食間の空腹時に服用が基本です。
水かぬるま湯で服用してください。
急性胃腸炎や二日酔い、胸やけなどで服用する際には即効性を感じる人が多いようです。
ご自身の症状にあわせて、時には医師や薬剤師などの専門家に相談しながら服用してください。
半夏瀉心湯の副作用について
半夏瀉心湯は、体力が中くらいの方にすすめられる漢方薬です。
半夏瀉心湯の主な副作用としては、発疹、蕁麻疹などが報告されています。
また、まれに以下のような症状があらわれることがあります。
- ・発熱、空咳、息切れ、呼吸困難症状(間質性肺炎)
- ・尿量の減少、むくみ、手のこわばり(偽アルドステロン症)
- ・体がだるい、力がはいらない、手足がひきつる、手足がしびれる(ミオパチー)
- ・体がだるい、黄疸が出る(肝機能障害)
このような症状が出た場合はすぐに使用を中止して、医師に相談してください。
ストレスの諸症状に漢方薬を上手く取り入れて上手に対処する
漢方では、明らかな病気として確立される前段階を「未病(みびょう)」と呼びます。
この段階で症状を治すこと、あるいは未病にもならないように予防することが重要と考えています。
ストレス社会とも言える現代社会では、この「未病」の状態にある人が多いのではないでしょうか。
西洋医学では、この未病に対してアプローチすることはほとんどありません。しかし、漢方ではこの未病に対しても効果を発揮することができます。
上記で紹介したように、ストレス症状に効果があると認められている漢方薬は、今回紹介した「半夏瀉心湯」以外にもたくさんあります。
原因のわからない不調を感じられている方は、一度漢方薬を取り入れてみてはいかがでしょうか。